天正村を出て、ヴァイスが通った道を歩く一行。その様子は、かなり…目立っていた。
和装の睦月や弥生はともかく、マントの楓に洋服の留衣に巫女装束姿のリン、白い着流しのヴァイスに服装よりも目つきと白髪、目の色のリュウ。事情を知らない人間から見たら『大道芸人』とか『根なし草の際物集団』にしか見えないだろう。
殿を務めているリュウは、前方を歩いている睦月に前々から疑問に思っていた事を訊いた。
「おい、睦月」
「…何だ? リュウ」
睦月の声と口調は、村を出る前に訊いた弥生より若干低い少女と冷静混じりの口調ではなく、初めて会った時の声と口調に戻っていた。
「お前さ…性別どっちだよ?」
「…女」
「だったら、何で男装してんだよ? お前、女なら」
女の格好しろよ、紛らわしーんだよ、とリュウが睦月に言う前に、喉元に脇差の白刃が、心臓部分にマニューリン MR73の銃口が突き付けられた。ちなみに白刃は睦月、銃口は留衣だ。
「俺がどんな格好でいようと、俺の意思でやっているんだ。お前に言われたくない」
「師匠、今のうちに言っておきますけど。冬兄の前で容姿についてあれやこれや言わない方があなたの身のためですよ。もし、今度冬兄の前で先程のようなことをおっしゃったりしたら…どうなるか、理解していますよね?」
7人の間に微妙な空気が流れる中、リンは腕を束ねて留衣に訊いた。
「おい、留衣。冬兄って…睦月か?」
「ええ」
リンに答えた留衣は、脇差を鞘に納めている睦月にアイコンタクトを寄こした。
――説明してあげなよ。
――面ど…
――早くして。
――了解。
「この時の俺の名前が季冬だから、留衣は冬兄って呼んでいるんだ」
できる事なら、この時は季冬って呼んでほしい。と続けると、リンは束ねていた腕を解いて了承し、弥生は「当たり前じゃん」とにっこり笑った。ヴァイスは黙ってうなずくと、楓は内心『面倒くさい』と呟いたが、留衣に眉間にIMI ジェリコ941の銃口を突き付けて半ば強引に了承させた。
リュウは、左手で後頭部を掻くと睦月に「悪かったな」と耳元で囁くと、懐をまさぐる。彼女の左手の平に何かを押し付けた。
「何だ? これ」
「あ…あれだ。詫びの品」
「…耳栓が?」睦月が怪訝そうな顔をすると、リュウは明後日の方向を向いて言った。
「あれだ、もし夜中寝る時に誰かのいびきで眠れねー時にでも使え」
「…わかった」
睦月は耳栓を懐にしまうと、先頭を歩いているリンが歩き出した。それに留衣と楓、ヴァイスと弥生、睦月、リュウの順に続く。
睦月はリュウの方を向いて呟いた。
「これからは気をつけろ」
その後、7人で話し合い。睦月の口調と態度、皆が彼女を呼ぶ時は7人以外がいる時は『季冬』で、7人がいる時は『睦月』に決まった。
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