猛暑が続く8月下旬。
お盆で大阪から帰ってきたうちを待っとったのは、いつも以上に仏頂面の壱葉やった。
「すまへんな、1人にさせてしもうて」
「……うん。おなか減った」
「せやな。うちもおなか減ったさかい、何でも作るで」
「手伝うよ」
荷物を玄関に置いた時、内線電話が鳴って壱葉が受話器を取る。そして、二言三言喋るとうちの所まで来た。
「葉実橋から。今すぐに談話室に来てくれって。実家で買ってきたお土産を皆に渡したいからって」
ハシバミのお土産? 何やろう、カツオのたたきがええな。
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壱葉と一緒に談話室に来た時、おるのは“危険因子”と“監視者”がほぼ全員揃っとった。
「壱葉、青。こっちだ」
菖蒲に声をかけられてその一角に座ると、円卓テーブルには時計回りにハシバミ、八月一日、蓮――最近分かった事やけど、本名は蓮苅(れんが)っちゅうらしい――、翡翠、晶華の姐はん、菖蒲、零が座っとった。
そして、円卓テーブルにはハシバミのお土産と思われる高知の名産品が所狭しとあった。
「蒼夜は?」
「風邪こじらせて、医務室で唸っている。あいつは翡翠と違って、バカじゃないからな」
菖蒲の一言に翡翠が殺気立つと、晶華の姐はんが片手で制するとハシバミが手を鳴らした。
「じゃあ今から、土産手渡すき」
ハシバミがそれぞれに合った土産を手渡していく。というても、饅頭やったりゼリーやったり、揚げたイモに砂糖水を絡ませた菓子やった。
うちには、でかい発泡スチロールの箱やった。
「ハシバミ、何でうちにはこれやねん?」
「おんしにゃこれが一番だろ。さかしー指」
中にカツオのたたきらぁいろいろ入っちゅうから、ほき俺達の昼飯を作ってくれ、と付け加えて。うちは、久し振りにこの面子で食べる昼を作る事になった。
ちなみに。
発泡スチロールの中身は、確かにカツオのたたきと……サンマのみりん干し、かちりちりめん、鯖寿司、うつぼのたたきがあった。
ハシバミ曰く『高知でうつぼのたたきを食うのは法事ぐらい』らしい。
「その法事で食うっちゅううつぼのたたき、何で土産に持って来たんや?」
「……姉貴がうつぼのたたきを土産に持って行けってうるさかったから」
ハシバミの目がうつろになると、零が肩を黙って叩いた。どうやら、上に苦労しとんのはどこも同じやな。
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